ホーム » ブログ » 『むすひ』より ~トークエッセイ 土井善晴さん~

『むすひ』より ~トークエッセイ 土井善晴さん~

投稿日:2018年11月20日(火)


今日は白旗神社氏子崇敬者バス旅行。宮司はじめ氏子崇敬者総勢41名が静岡方面に旅します。詳細は後日の当ブログにて…権禰宜の遠藤です。

さて、少し前のものになりますが、神社本庁・神宮司庁編集、神社新報社発行の広報誌 『むすひ』平成30年版掲載、料理研究家 土井善晴さんのトークエッセイをご紹介致します。

むすひ 表紙

 

むすひ1

むすひ2

【トークエッセイ 料理研究家 土井善晴さん】

私は、新しくすることは、実は古くなることの始まりでもあると思うんです。例えば、伊勢神宮の式年遷宮は古くから続いていて、二十年に一度すべてを清めて新しくしますね。新しいことと古いことの両方に美しさを見出す日本人の美意識は、どちら か一方ではいけないバランスを日常の中に混然と取り入れて、「ああ、ええな。美しいな」と感じさせる…。人間という小さなものだけでなく、自然というもっと大きなもの、全ての命との「結び所」に美しさを見出すということ。そこに、他の国にはない素晴らしさがあるのだと思い ます。

 その素晴らしさの原点を、日本料理の美意識の中にも見出すことができ るのは不思議ですね。
料理には、神道でよく言われる「ハレ」と「ケ」という、二つの方向性があると思います。「ケ」は日常のお料理のこと。「ハレ」のお料理は、まさに神饌、神さまにお供えするお食事のことです。神さまのために形を整え、煮炊きをする。あるいは自分達が食べないものに対して、普段よりもきれいに、と願いをこめて手をかける――これは神社のしつらえや装飾などにも繋がるものではないでしょうか。
また、例えばおせち料理も「ハレ」のお 食事と言えます。神さまに対すると言いますか、日頃の感謝をこめて手をかけるということに意味や価値があるんだと思います。ただ最近では、「時短おせち」などがよく取り上げられているように、忙しい「ケ」のお食事をする日常と、特別な「ハレ」のお食事をする改まった日が、入れ替わったり混ざったりしているように感じています。

 もっと「ハレ」の日を楽しんでほしいと 思います。とくにお正月には、やはりきれいな装いをしてほしいですね。外で「ハレ着」を見かけることも、最近では少なくな りました。

うちのお正月は、家族みんなで和装にな り、ちょっと改まった気持ちで御挨拶をして、初詣に行きます。「ハレ」を楽しむから、 「ケ」の日常も楽しくなる。衣食住をはじめ、日本文化の中には良いものがたくさんあるのに、それさえ美術館で「いいね」って見るだけになってしまったら、大事なものなんて全部なくなっちゃうでしょう。

 日本の古くからの習わしの中には、日本人としての基本になるようなものが、沢山あると思います。「神祭り」だけでなく、お料理や器にも言えることです。例えば、 私たちは白木の割箸や折箱に清潔さを感じます。きっとそこには、私たちが自然のも のに無意識で見出した「神」というか、「八百万」との接し方が表れているのだと思います。

 私は若い頃に料理屋で仕事をしていましたが、ある日、食材の勉強をしようと漁師さんに付いて行っていた時、食材の力、美 しさに心を打たれました。それまで食材は 市場で買ってきたものばかりでしたから、「本物」を知らなかったんじゃないか、と思ったんです。そして漁師さんたちは無意識に、素材をとてもきれいに整えるんですね。それを目の当たりにした時、何という か、自らの手の「使い方」に恥ずかしさを感じました。

 私は、いかに効率よく、早くと、素材をこちらに合わせようとしていました。ですが大切なことは、「人より早く」ではなく、 一つ一つの素材に向き合うことだと知ったんです。私たち現代人は素材に向き合った時、「大変だ」「面倒くさいな」という気持 ちになりがちです。でも人間にはきっと、そんな思いのない時代、素材をただ美しいと思える世界があった――そう感じました。

「そう思うと、何をするにしても楽しめる んですね。素材にしっかり向き合うと、素 材は美しさ、そして美味しさで以て応えてくれる。そしてそれを扱う人の手、人の佇まいも、美しいものになっていくんです。「いい恰好をしよう」とか「これはオレが作った」とか、我を出すものではない世界を食材から教わりました。自分がどのような心でどのように振舞うか。それが美しいもの、 清らかなものを作り出すのだと思います。お料理にどのように接すればよいかとい うことは、どのように暮らせばよいかとい うことでもあると思います。不思議と神道に通じるようなことですね(笑)

<土井 善晴(どい よしはる)>

昭和三十二年、大阪府生まれ。ヨーロッパでフランス料理を学び、帰国後は日本料理を修業。土井勝料理学校講師を経て、平成四年に「おい しいもの研究所」を設立。変化する食文化とその周辺を考察し、命を作る仕事である家庭料理の本質と、持続可能な日本らしい食をメディアを通して提案している。元早稲田大学非常勤講師、学習院女子大学講師。昭和六十三年から「おかずのクッキング」(テレビ朝日系)レギュラー講師、昭和六十二年から「きょうの料理」(Eテレ)講師。著書多数。近著に『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)。」


白旗神社ホームページへようこそ。当社は古くから藤沢の地に鎮座する古社で、相模國一之宮寒川神社で有名な寒川比古命と歴史上のヒーロー・源義経公をお祀りしています。寒川比古命は厄除け・方位除けの神様として知られます。また武芸、芸能、学問に優れ、才気あふれる源義経公は、学業成就、社運隆昌などのご神徳があります。境内には、悠久の歴史を感じる史跡が多く、四季を感じられる緑豊かな自然もあります。
ぜひ早起きした朝やお休みの日にでも、お気軽に当社にお越しください。皆様のご参拝を心よりお待ちしております。