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【神社新報社コラム】鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~①

投稿日:2022年2月9日(水)


明日は関東甲信の広い範囲で雪や雨が降るそうです。歩道など凍っていると分かりづらい場所もあります。滑りやすいのでお気を付けください!権禰宜の新久田です。

▽今年初雪が降った亀形山の様子

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▽昨年末の境内の様子

境内のモミジ

さて、神社界唯一の業界紙であります『神社新報』令和4年1月24日号掲載のコラム「鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~」をご紹介致します。

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【鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~①】神木・名木 その保護と問題点

「巨樹・巨木が 多くある神社」

神社の境内・社叢には巨樹・巨木が多い。そのことで、そこが神社であることがわかる。それら巨樹の多くには注連縄が張られてゐる。神は樹木にも降臨されるとされ、これを神籬などといった。

古来、巨樹・巨木は神聖なものと信じられてきた。鳥居の前には「下馬」の高札とともに、「定」として「竹木ヲ伐ルコト」「魚鳥ヲ捕ルコト」の禁止が掲げられてゐる。

神社境内は「不入の森」「禁足地」として、人が入ってはいけない場所、いっさい樹木を伐採しないところとされてきた。しかし、法律や罰則はそのやうな違反があるからつくられるもの。わざわざ、「定」が掲示されるといふことは、往時でも現在でも、そんなことがおこなはれてゐたといふことでもある。

環境庁編『日本の巨樹・巨木林(全国版)』(平成三年)によると日本最大の木は鹿児島県姶良市八幡神社のクスノキ(蒲生の大楠)で、巨木ランクの十位まではエドヒガン(江戸彼岸)一本を除きあとはすべてクスノキ。クスノキが大木になることがわかる。それらの巨樹の多くは、間違ひなく神社にある。先の全国十位までの巨樹も二つを除き、すべてが神社にある。神社にあったから巨樹になった、巨樹になったので神木とあがめられるやうになったのであらう。神社の外にある巨樹にも注連縄が張られてゐることが多い。

巨樹(巨木)とは、環境庁の基準では高さ(胸高)一・三メートルのところで胴回りが三メートル以上のものとされる。

樹木が斜面にある場合は樹木の山側に立って測る。文化庁では「目通り直径」といってゐる。ところが巨樹になるほど、根元は凸凹してゐるので、実際に測ってもらへばわかるのだが、測るのは簡単ではない。どうしても大きくしたいし、比較の場合、まったく別の人が計るのだから基準は曖昧になる。わづか数センチ違ひでのランキングにはあまり意味がないと知っていただきたい。

神社の外でも巨樹に注連縄が張られ、小さな祠がおかれ、花が供へられてゐる。時には道路自体がこの巨樹を避けて曲がってゐることも。こんな木を伐ると祟りがあるとされ、伐った人に不幸があったといった都市伝説も残されてゐる。

「神木に多様な種類や由緒が」

神社境内は禁足地として、創建以来、まったく人手が入ってゐないと思はれがちだが、神事に用いるサカキ(榊)、ヲガタマノキ(小賀玉木)、ナギ(梛・竹栢)、ユヅリハ(楪)、ヒヒラギ(柊)、ナンテン(南天)などが境内に植栽されてゐることは多いし、創建時に、あるいは戦勝祈願・参拝記念として植樹する伝統も古くからある。京都付近でも石清水八幡宮に楠正成植栽のクスノキ、源頼朝のクロマツ(黒松)、若一神社には平清盛植栽のクスノキが。新熊野神社のクスノキは後白河法皇が植ゑたとされる。奈良・春日大社には天然記念物の竹栢林があるが、これも古く寄進によって植ゑられたものと考へられてゐる。

神木は各神社で決められ、決まった基準はないが、大きなもの、小さくても珍しい樹木が神木とされ、注連縄が巻かれる。全国の約八万社に御神木があるかどうかを調べた報告書がある(笹生衛監修『神社と御神木・社叢』國學院大學神道資料館・平成二十四年)。御神木があると回答した神社は千二十八社なので、神木のない神社も多いことがわかる。御神木でもっとも多いのがスギ(杉)、次いでクスノキ、ケヤキ(欅)、ヒノキ(檜)など。樹種は六十八種にも及び、社叢全体が御神木だとする神社も五十六社あった。

御神木のうち国指定天然記念物が八件、都道府県指定の天然記念物等が六十三件あるとされる。市町村指定のものならもっと多いであらう。同時に、これら御神木の由緒なども報告させてゐるが夫婦銀杏、孕み杉など通称のあるもの、神社の歴史に登場するもの、夫婦和合・子宝授けなど願ひの叶ふものなど、神木の「多くがその由緒を持ってゐた。神木は寺院にもある。ここでも注連縄が張られてゐる。

「巨木がゆゑの切実な問題も」

巨樹・巨木には独得の風格・威厳がある。思はず手を合はせる。パワーをもらへるとして、これら巨樹に触る人も多いが、根元の土を踏みつけるなどで巨樹を弱らせる原因にも。ロープで近寄れないやうにしてゐることもある。

禁足地だとして樹木が枯れてもそのままにしてゐる神社もある。確かに、十分な広さがあり、樹木が倒れても参拝者や建物への影響がない場合、そのまま放置することが虫やキノコの繁殖場所となり生態学的には社叢の生物多様性保全に貢献する。しかし、そんな広い境内をもつ神社は少ない。

周辺が住宅地に囲まれてゐる都市域の神社。そこでは落ち葉の飛散、巨木があることで日陰になること、倒木の質などのさまざまな苦情が寄せられ、そのため枝の剪り落とし、伐採がおこなはれてゐる。

森林なら倒す方向を定め伐倒すればいいのであるが、神社境内の場合、中でも、神木・巨樹の場合、伐り倒せば本殿など建物に当たってしまふ虞があり、伐り倒せないことがある。クレーン車などを入れないといけないのだが、進入道もなく作業車が入れない。長い梯子を固定し人力で上から少しづつ伐っていくしかない。いづれにしても、その作業には大きな支出がともなふ。

神木・巨樹にも寿命がある。できるだけの延命策が求められるが、倒木の危険性がある、あるいは枯死した後のそれら伐採・撤去は素人にはできない。専門業者に頼むしかないのだが、特殊な作業だけに大きな支出が必要になる。厳しい神社運営の中、この支出ができないことも多い。とくに、過疎地・限界集落では危険木も放置されたままになってゐる。

神社の森・社叢が果たしてゐる防災避難地・ヒートアイランド現象の緩和・大気浄化、天然記念物指定を受けるなど生物多様性の維持などに貢献してゐることを認めてもらひ、建築物や神楽などが文化財の指定を受けてゐることと同様に、神木・巨樹、社叢の維持に公費の支援があってもいい。

京都府では社寺の森の保全、名木・古木の保全などを対象に「京の森林文化を育てる支援事業」を実施してゐる。倒木の危険性のある樹木の伐採・除去への支援要望が多い。神社が神木・巨木を守りながら抱へてゐる切 実な問題であることがわかる。

(NPO法人 社叢学会 副理事長 京都大学名誉教授 渡辺弘之 著)

 


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