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【神社新報社コラム】鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~②

投稿日:2022年2月14日(月)


【暦で見る九星の運勢シリーズ】二黒土星:令和4年3月(各自の九星についてはブログ末尾の表をご参照ください)「吉方…東 運気充実して期待の持てる月になりそうです。堅実・着実に努めて来た事が認められ、良い結果となってあらわれるでしょう。但し新旧の入れ替えが重なるので、焦らず落ち着いて」とのことです…権禰宜の遠藤です。

さて、神社界唯一の業界紙であります『神社新報』令和4年1月24日号掲載のコラム「鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~」をご紹介致します。

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【鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~②】祭礼・神事で使われる植物

神社ではお正月の歳旦祭から大晦日の除夜祭まで、一年中、祭礼・神事が続く。その数は創建の古い大きな神社ほど多く、小さな神社ほど少ないといっていいやうだ。その祭事で使はれる植物も、当然神社の歴史・由緒が違ひ、地域の植物相の違ひで、違ったものが使はれてゐる。なぜその植物が使はれるのか聞いても、その由来はわからないこともあるが、ササ(笹)、サカキ(榊)、ヒカゲノカメラ(日陰鬘)などは『古事記『日本書紀』の天の岩戸神話に遡る。古くから使はれてきたと考へていいやうである。

玉串には普通サカキを使ふが、私が参拝した京都・石清水八幡宮ではヲガタマノキ(小賀玉木)、奈良・吉水神社ではアセビ(馬酔木)、長野・諏訪大社ではサカキと呼んでゐたがソヨゴ(冬青)であった。南紀熊野三山ではナギ(梛)だ。奈良・春日大社でも一の鳥居にはナギが飾られる。笹生衛監修『神社と御神木・社叢』(國學院大學神道資料館・平成二十四年)は全国の神社にアンケート調査をし、全国で三十六種もの樹木が玉串に使はれることを報告してゐる。

サカキはツバキ科の常緑高木で、その語源は「栄木」、「常盤木」あるいは「境の木」ともされ、自然分布は関東南部以南、四国、九州と台湾、中国とされる。現在のやうに、特定の樹種サカキを指すやうになったのは平安時代以降のこと。サカキが俗界・不浄の世界と清浄な世界の結界を表した。サカキの分布しない中部地方では玉串にヒノキ(檜)・サハラ(椹)が、東北地方ではヒバ(檜葉)〈別称・アスナロ(翌檜)>が、北海道ではイチヒ(櫟)〈別称・オンコ〉が、沖縄ではイスノキ(柞の木)・ガジュマル(細葉榕)が使はれるとされる。サカキを境内に植ゑてゐるところもある。

とはいへ、すでにスーパーでは中国産のサカキが売られてゐるし、一般家庭の神棚にはプラスチックの造花が使はれ、京都のいくつかの神社でもよくみるとプラスチックであった。プラスチックの造花より、願ひをこめれば、地域で得られるもの、境内で得られるものでいいのではないかと思ってしまふ。シキミ(樒)は普通、仏事に使はれる植物だが、京都・愛宕神社では「火廼要慎」の護符と共に神花としてシキミが授与される。

「植物の使ひ方」

ヒカゲノカヅラはシダ植物に近縁のヒカゲノカヅラ植物で、カメラ(鬘・蔓)の名の通り長さ数メートルにも及ぶつるを明るい地表や岩の上に伸ばす。このヒカゲノカヅラ、京都・伏見稲荷大社の大山祭では神職がとれをたすきにし、参拝者にも授与。奈良・大神神社の摂社・率川神社の三枝(百合)祭ではササユリ(笹百合)が主役であるが、巫女はササユリを手に頭にヒカゲノカヅラを飾り五節の舞を奉納する。

京都・賀茂別雷神社では正月の本殿楼門にウンギ(空木)の枝にヒカゲノカヅラを巻きつけ、ハナショウブ(花菖蒲)、ヤブコウジ(藪柑子)を挟んだ卯杖が飾られる。京都の老舗旅館では正月の玄関床の間に掛蓬莱といはれる長いヒカゲノカヅラにナンテン(南天)や注連縄をつけたものを飾る。京都・安井金比羅宮ではお正月に稲穂にヒカゲノカヅラを巻きつけ紙垂をつけた「稲宝来」を授与。和歌山県南部では節分の日にヒカゲノカヅラを玄関に注連縄のやうに張る。

京都の三大祭の一つ葵祭の正式名称は賀茂祭であるが、賀茂別雷神社(上賀茂神社)・賀茂御祖神社(下鴨神社)で使はれるのはフタバアフヒ(双葉葵)〈別名・カモアフヒ(賀茂葵)〉と、葉の形がよく似てゐるカツラ(桂)。現在では一対を挿頭(かざしら)として冠や烏帽子につける。京都・松尾大社でも還幸祭には本殿や神輿をフタバアフヒで飾る。伏見稲荷大社でも還幸祭にはフタバアフヒとカツラが使はれる。

水無月大祓式では、どこの神社にもススキ(薄・芒)やチガヤ(千萱・白茅)でつくった大きな茅の輪が設けられ、この輪をくぐれば穢れを落とし、疫病を避けられるとされる。稲藁も注連縄に加工されると途端に威力を発揮。スギ(杉)は東北地方以西のどこの神社にもある樹木だが、伏見稲荷大社では稲荷山の「験の杉」としてスギの枝に赤い護符を添へた「福重ね」が授与され、稲荷祭には神職が冠や烏帽子にスギの小枝を挿した。大神神社でも三輪の神杉(お祓ひの杉)が授与される。

タケ(竹)・ササも神聖な植物の一つとされ、地鎮祭では四隅に青竹が立てられ紙垂がつけられる。湯立神事ではササの葉でお湯を勢ひよく散らす。小正月の門松、注連縄や神札を焼く左義長(どんど)では青竹が大きな音をだして破裂する。この大きな音も意味があるのだらう。各地にあるゑびす(恵比寿)神社ではササの葉に小型の熊手・箕・鯛などがついた吉兆笹・福笹が授与される。このほか、青竹に酒を入れた笹酒は各地で振舞はれる。京都・八坂神社の祇園祭では中に粽の入ってゐないササの葉で包んだ「厄除け粽」が玄関に飾られる。

家庭祭祀にも深く関はりが、神社の祭礼・神事は一般家庭での年中行事にも深く組み込まれてゐる。お正月に門松を目印に来られるといふ歳神様(歳徳神)を迎へるため、縁起を担ぎ、さまざまな植物を飾る。その第一は門松と注連飾りだらう。神を「祀る」はマツ(松)をあがめること、マツに神が降臨することに由来するともされる。

マツがタケと組み合はされた門松として登場するのは鎌倉時代以降だとされるが、デパートなどでは三本の青竹にマツが一本、これにウメノキゴケ(梅の木台)のついたウメの枝が添へられる。これで松竹梅だ。最近ではハボタン(葉牡丹)とナンテンが添へられる。一般家庭でのダイダイ(橙)のついた注連飾りは急速に少なくなった。あっても、ダイダイはプラスチックだった。

先の見えないコロナ禍の中、人々は疫病退散、厄除け・魔除けにすがる。節分にはヒヒラギ(柊)やトベラ(扉)の葉を玄関に飾るとされる。棘や匂ひで厄・魔を祓ふのである。

伏見稲荷大社でどのやうな植物が祭礼・神事で使はれるのか興味をもって参列した。しかし、厳粛な神事の中では動けないし写真も撮れず、神饌の中など、とても覗けないものであった。それでも、玉串にサカキ、歳旦祭・稲荷祭りにスギ、菜花祭にナノハナ(菜の花)、大山祭りにヒカゲノカメラ、クサギ(臭木)、青山祭りにシヒ(椎)、フタバアフヒ、カツラ、大祓にススキの茅の輪、荷田社例祭にはウメ(梅)の花を添へるなど、さまざまな植物が使はれてゐることを知った。

使はれる植物も境内にあるものか外部へ発注しないといけないものか、その寸法、飾り方には当然指南書が残され、それに従って遺漏ないやうに準備してゐる。その努力の上に現在の祭礼・祭事がおとなはれ、継続されてきた。しかし、住宅事情の変化、少子高齢化、過疎化、宗教離れなど社会情勢の変化は急である。何かが省略され、何かが加はるなどの変化が起こってゐる。

(NPO法人 社叢学会 副理事長 京都大学名誉教授 渡辺 弘之)

R4厄年表


白旗神社ホームページへようこそ。当社は古くから藤沢の地に鎮座する古社で、相模國一之宮寒川神社で有名な寒川比古命と歴史上のヒーロー・源義経公をお祀りしています。寒川比古命は厄除け・方位除けの神様として知られます。また武芸、芸能、学問に優れ、才気あふれる源義経公は、学業成就、社運隆昌などのご神徳があります。境内には、悠久の歴史を感じる史跡が多く、四季を感じられる緑豊かな自然もあります。
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