投稿日:2020年2月20日(木)
段々と暖かくなる気候。春の訪れを告げるものは花やウグイスの鳴き声だけではありませんね…今年は一段と花粉に鼻をやられています…。新型コロナウイルスの予防の為にもマスクはしっかりつけています、権禰宜の佐藤です。
さて、本日は伊勢神宮崇敬会発行の『みもすそ』93号(令和二年冬)より、特集「伊勢の伝統木工芸」を御紹介致します。
特集【伊勢の伝統木工芸】
豊かな自然と温暖な気候に恵まれた伊勢では、古くから神宮にゆかりある工芸品や民芸品が作られてきました。
とりわけ「木」を素材としたものが多く、宮大工が御造営の払い下げ材を使って始めたとされる伊勢一刀彫、朝熊山で採れる本黄楊を彫る伊勢根付、色鮮やかな伊勢玩具は、江戸時代から今日まで脈々と伝えられてきました。
今号では、伊勢近郊に工房を構える三名の職人をご紹介します。
〈宮大工の余技から生まれた大胆なノミ使いが魅力 伊勢一刀彫 太田結衣さん〉
のどかな里山を望む玉城町の一画。太田結衣さんの工房は、クスノキの芳香に包まれています。
伊勢に伝わる一刀彫は、神宮御造営に従事する宮大工が余技として端材で縁起物を刻んだのが起源と言われています。特徴は一度の刻みがそのまま仕上がり面になるような豪放で直線的な造形。神宮で頒布される「えと守」をはじめ、「神鶏」「代参犬」など神宮にちなむモチーフが好まれてきました。
太田さんが一刀彫の世界へ飛び込んだのは今から10年前。東京の美術大学の彫刻科を卒業後、岸川行輝氏に弟子入りしました。
「彫刻家として食べていける道を模索していた折に、神宮のえと守のことが頭に浮かびました。どこにも求人募集はなかったのですが、郷里の知人から師匠を紹介させて頂き、一年間工房に通わせて頂きました。」
伊勢一刀彫はクスが主材です。神宮えと守の場合は、神宮林から搬出された材を全国各地の職員さんたとがそれぞれの工房で彫ります。丸太を角材にひき、直方体に切ってから刻みの作業に移ります。太田さんは自作の型紙を木に当てて、削る際のガイドを書き写します。カッ、カッ、カッ……勢いのある刃音が工房に響きます。一刀彫は木目や刃痕を生かすのはみそ。大小さまざまなノミや彫刻刀を使って、全体は大胆に、顔や耳などは慎重に彫り勧めていきます。
「仕上げますね」
太田さんは小筆を手にすると、彫り上がったねずみに黒いアクリル絵具で目を入れ、続いて朱と金で彩色しました。神宮えと守は無彩色が基本ですが、縁起物として売られているものは少しお化粧するのだとか。
「神宮えと守は毎年、一流の彫刻家がデザインしたものを、各地の職人が年末に向けて彫っていきます。子供が生まれたこともあって、今年は神宮のえと守りは150体、全体では1800体に減らさせて頂きました。」
伊勢一刀彫はより多くの人に知ってもらいと、太田さんはオリジナルの商品も創作し、情報発信に努めています。近年、妹弟子と弟弟子が出来たことを嬉しそうに語ってくれた太田さん。伊勢一刀彫の伝統のたすきは、次世代にきちんと受け継がれていきそうです。