投稿日:2018年12月9日(日)
今日はとても冷え込んでいます。内側がネル地足袋をはいていても、足が芯から冷えて行きます。お詣りに来られる際は、暖かくしてお出かけください…権禰宜の遠藤です。
さて、神社界唯一の業界紙であります、『神社新報』平成29年11月20日号掲載のコラム「杜に想ふ」をご紹介致します。
【杜に想ふ】~下町の居酒屋~
「仕事場(台東区谷中)の近くに「すずらん通り」といふ横丁がある。俗にいふところの飲み屋街である。小さな居酒屋やスナックが十数軒。よくぞこれだけ古びたままで残ってゐる、と感心するほどの横丁である。
そのなかの某居酒屋に、私は、時どきに顔を出す。83歳になる女将がひとりで切り 盛りをしてゐる店で、すいとんが名物料理である。
「十月中ごろのその日、先客があった。壮年のイタリア人のカップルである。「女将が、微苦笑を私に向けて、ちゃうどよいところに来てくれた、相手を頼む、といった。それで、カウンターに横並びで彼らと話すことになった。
二週間の休暇をとって、はじめて日本に来 たのだ、といふ。前日に来日したばかりで、浅草に宿をとって五日間の東京滞在、あとは北海道と京都をまはる予定、とのこと。その日の昼間は浅草を歩き、区内循環のバスを利用してここに来た、といふのである。 しかし、なぜにまた。と、私は、素直な疑 問を口にした。
すると、ガイドブックに、東京で日本らしい日本にふれられるのは「下町の居酒屋」と 載ってゐる。そして「すずらん通り」も紹介されてゐるのだ、といふ。「それから話がはづんだ。彼らからの質問も多かった。多くは、想定内であったが、ひとつだけ返答に困る質問があった。
「日本では、なぜ、あんなに多くの人がマ スクをしてゐるのですか」
ヨーロッパでは、まづ見かけない姿であるさうだ。大気汚染なのか、疾患の流行なのか、と問はれた。インフルエンザが流行する冬場ならともかく、まだ日中汗ばむ日もあるこの時期となれば、それは否定するしかない。さういへば、マスクをする習慣じたい、日本でもさ ほどに古い習慣ではなからう。
私が首をひねってゐると、彼の方から意見がでてきた。「日本人は、お互ひの信頼感が強いからではないか。ヨーロッパでは、マスクで顔を覆ふと怪しまれる」彼女も発言する。「日本人は、神経質。ヨーロッパでは、さ う評されてきた。潔癖症が過剰に反応してゐるのではないか」
彼らは、私などが足元にも及ばないみごと な英語を用ゐながら会話を楽しむ。私は、感心して聞き役にまはってゐた。 それで、ふと気づいた。日本人は、神仏に詣でてもマスクを外さないのではないか。 これをどう見たか、と彼らにたづねてみた。「日本人の神仏は、きっと鷹揚なんでせうね」
秋の夜長、いつの間にか銚子(二合入り)三本が空いてゐた。」