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【神社新報記事】鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学 社叢を保全・維持するための指針~

投稿日:2022年6月7日(火)


さて、神社界唯一の業界紙であります『神社新報』令和4年3月7日号掲載のコラム「鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学~」をご紹介致します。

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【鎮守の森の過去・現在・未来~そこが知りたい社叢学 社叢を保全・維持するための指針~】

「社叢は環境形成効果の大きい樹木を主体とする植物を中心とした空間であることから、そこには植物に従属して生活する動物など多種多様な生物が生活してゐる。

ほとんどの社叢は立入りを禁止した「禁足の森」とされ、人の関はりを規制してきた。それは多様な生物が生活できる空間の形成に寄与してゐる。

他方、地域の社叢は鎮守の森として地元の人々によって参道や拝殿前の清掃はもとより、社叢の縁辺(林縁)の除草やツル切りなどの管理がおこなはれ保全・維持されてゐることも。

鎮守の森は地域の気候的極相林として森や林の保全や維持、ひいては自然保護の模範とされることがある。「鎮守の森から極相林を連想するといふ考へ方の背景には、初期の群落が自然の節理(遷移)により気候的極相林となるまでの永い年月に亙り、人が森に関与してゐないことを重ね合はせてゐるのではないかと考へられる。森や林は時間の経過こともに樹種構成と密度、高さが変化。やがてその集団の構造は変化が穏やかになり停止し、群落は安定した状態になる。

日本の暖温帯地域を事例にすると裸地から遷移が始まり、安定した極相林に至るまでに要する時間は、諸説あるが約五百から七百年。長い時間が経過しても気候条件、地理的条件などにより気候的極相に到達することなく、途中段階で遷移が停止した群落を土地的極相と呼んでゐる。地球の陸地には、特別な高温や低温、乾燥などの地域を除けば何かの植物が大地や大地の延長上に根を下ろし生活してゐる。植物の生活に水は不可欠なものであり、植物の体が大きく、とくに高くなるには十分な水が必要。植物への水の供給は降水であり、この降水量によって世界の植物の分布が支配されてゐるともいへる。植物が森を形成するか否かは降水量が大きな影響力をもってゐる。

日本は大陸の東側に位置してをり、夏に降水量が多くなる夏雨気候下であり、気温が上昇し植物の生育が旺盛になる時期に十分な降水量がある。このことから日本の植物の分布は気温に支配されてゐる。高海抜地や緯度の高い地域を除けば国土のほとんどは森に覆はれてゐる。

<人が創り出した森 その成功例として>

人が創り出した社叢として明治神宮の森は有名である。この森の造営は、この地の気候的極相を推定した林苑計画に基づいて進められた。計画では林相を第一次から第四次まで示してをり、第三次までに約百年内外を想定。この段階でカシ(樫)、シヒ(椎)、クスノキ(椿)が優占木となり、これらの中にスギ(杉)、ヒノキ(檜)、サハラ()、モミ(樅)、マツ(松)類等を混成する森となってゐる。第三次から数十年から百余年で針葉樹は消滅し、純然としたカシ、シヒ、クスノキの常緑広葉樹林になるとされてゐる。

この森の造営に関はった技術者のひとりである上原敬二は、生前に明治神宮の森を訪れ、目標とした第三次の森が予想よりも早くできあがってゐると述べてゐた。目標時期より早く到達したことの要因のひとつに、マツノザイセンチュウによる被害で早くマツ類が枯死したことがある。勿論「禁足の森」「落葉落枝を森へ還す」等の林苑管理の定めを厳守したことも考へられる。.近年、森づくりが提案される時に必ずといってよいほど「明治神宮の森」が森づくりの模範として、また成功例として取り上げられる。明治神宮の森を取り上げる背景には、人がつくったといふ人為の可能性、管理は必要ないやうに見える森の姿、生物群集による森の営みなど「理想の森」となってゐることが考へられる。

明治神宮の森が理想の社叢として形成してきたことは、綿密な調査と解析、伝統技術に対する科学的裏付け、理論を具現化する技術などで示されてゐる。とくに宝物館前は、あへて樹木を植ゑず芝生広場としてゐるのだが、これは樹木の生育基盤となる土地の潜在力(限定要因)が樹木の健全生育には厳しいことを見極めてゐたことによるものと考へられよう。

<樹木の個性により社叢を形成維持し>

社叢としての森づくりは、一本一本の樹木が健全に生育し個性を発揮することが重要。社叢にはすでに気候的極相に到達してゐる森や極相に向かって遷移途中の森、あるいは土地的極相の森などさまざまな遷移段階の森がある。気候的極相では陰樹林となり、生物群集と無機的環境が変化しない限り、それ以上の群落の遷移は起こらないとされてゐる。陰樹林は群落構成種の中で光に対する競争で優位に立った樹木により構成されてをり、遷移途中の群落より生物群集の種数は少ない。気候的極相に達してゐる社叢は森の階層構造が単純化し、地表は暗く乾燥気味であり限られた植物だけが生活し、生物多様性は低くなる。土地的極相の森では陰樹林となることは少なく明るいが、その土地の限定要因によって必ずしも生物多様性が高いとはいへない。生物多様性が高いのは、気候的極相の前段階とされる陽樹と陰樹による混成林とされてゐる。

極相林では構成種の種子が供給され後継樹が育つことで森は持続するとされてゐる。しかし極相林の地表環境から稚苗は生育できず後継樹になれない。一般に極相林の構成種が倒れて林冠が空いて(ギャップ林冠の穴)光が入ることで陰樹の稚苗が後継樹として生長するとされてゐる。これをギャップ再生と呼ぶ。

この現象によって存続(循環遷移)する社叢は、ギャップが発生しても森の環境が大きく変化しない緩衝力が担保できる一定以上の広い森が該当する。気候的極相の社叢を持続させるには、間伐によって人為的にギャップをつくり、地表を操作して陰樹の世代交代を促す方法が考へられる。定期的にギャップをつくることで陰樹の異齢林を形成することにもつながり、森の多様性にも寄与すると考へられるだらう。

<生態系には変化も 課題ある社叢維持>

社叢としての森は生物群集と無機的環境による生態系のバランスによって形成されてゐる。近年、生物群集の生産者、消費者、還元者の動態は変化。社叢を構成する植物(生産者)は在来種を主体にしてゐるが、鳥散布によってツル植物のキウイ、トウネズミモチ(唐鼠|鍋)、風散布によってシマトネリコ(島秦皮)などの種子が運ばれ発芽、生育し社叢に外来種が侵入してゐる。

また、植物に従属する昆虫(消費者)の影響はマツノマダラカミキリの線虫媒介による松枯れ、カシノナガキクヒムシのナラ枯れ、クビアカツヤカミキリのサクラ類被害など。還元者としての微生物は種類と数を減らしてをり、これには表土層の乾燥が影響してゐると考へられてゐる。生物群集の動態変化は森の遷移によることも一因と考へられるが、生物群集の動態変化に無機的環境要因の変化が関与することも見逃せない。無機的環境要因としての温暖化による気温の上昇、記録的な豪雨や強風、大気質の変化などが社叢に影響を与へてゐる。

社叢は森としての生態系が形成され、遷移によって安定化に向かってゐる。極相に到達した後も時の流れこともに生活してゐる個々の樹木。昨今は生態系のバランスにも変化がみられるやうになってきてゐる。日本のやうな湿潤気候下では植物の生育と森の形成は自然の流れのやうに感じてゐるが、目的を持った植物の空間の保全・維持には人の関与が必須。樹木を構成主体とする社叢を保全・維持していくには、常に社叢の生物群集を観察し不自然さを感じることが重要である。」


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