ホーム » ブログ » 【神社新報記事】「大麻」が危ない!~大麻取締法の真実~

【神社新報記事】「大麻」が危ない!~大麻取締法の真実~

投稿日:2016年9月22日(木)


週末は晴れますように…権禰宜の遠藤です。

さて、神社界唯一の業界紙であります『神社新報』9月19日付号に興味深い記事が掲載されていましたので、ご紹介致します。

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、神社の祭典・神事には麻の繊維をよく用います。近年、質のあまり良くない輸入品が幅を利かせており、国産品は高騰する一方で、神社界では危機感を抱いております。なぜ現在このような状況になっているのか、以下の記事に詳しく解説されています。

麻

長文の記事ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

s-20160922114015-0001

「【「大麻」が危ない!~大麻取締法の真実~ 皇学館大学現代日本社会学部教授 新田均

「神社では痲薬をお祭りに使ってゐるのですか」と聞かれたことがある。「大麻を祓具(はらえぐ)につけたり、注連縄(しめなわ)にしたり、熨斗袋(のしぶくろ)を縛ったり、神主が頭に結んだりしてゐるから」といふのが理由だった。確かに大麻は神道と深く関係してゐる「大祓詞」(おおはらえことば)の中にも「天都菅麻」(あまつすがそ)として大麻が登場するし、大嘗祭(だいじょうさい)で用ゐられる麁妙(荒妙=あらたへ)も大麻である。

しかし、そもそも大麻は神道にとってだけ重要なものではない。日本最古の印刷物と言はれる法隆寺蔵の「百万塔陀羅尼」は大麻紙に印刷されてゐる。夏を彩る打ち上げ花火の助燃剤として麻炭は欠かせない。同じく夏の風物詩である蚊帳も大麻で作られてゐた。合掌造りの茅葺屋根のベースには大麻の茎が使はれてゐる。七味唐辛子には麻の実が入ってゐる。赤ちゃんの産着も伝統的に大麻で作られてきた。横綱の化粧まはしも大麻だ。

【痲薬ではない】

ところが、このやうに日本文化を支へてきた素材である大麻は、現在では大麻取締法の対象とされ、痲薬として白眼視されてゐる。どうしてそんなことになってしまったのか。

日本産の大麻が法的取り締まりの対象になったのは占領中の昭和二十年のことだ。それまで大麻は、米に次ぐ農産物として何の規制も受けず全国どこでも普通に生産され、衣服、油、漁網、鼻緒、食料など多様に利用されてゐた。

大麻の生産は古代に遡るが、それを痲薬として吸引する習慣は日本にはなかった。大麻に含まれる精神作用物質を「テトラ・ヒドロ・カンナビノール」(THC)といふが、日本産大麻には、その物質がほとんど含まれていないからだ。それどころか、日本産大麻には「カンナビ・ジオール」(CBD)といふ物質が多く含まれてゐて、THCの薬効を打ち消す働きをしてゐる。

つまり日本では痲薬としての効果がないため大麻を吸引する習慣が生まれなかったのだ。したがって昭和五年に制定された「痲薬取締規則」でも、THCを多く含んでゐる「印度大麻草」(インディカ種)の輸入を許可制にしただけで、日本産大麻(サッティバ種)は規制の対象とはならなかった(武田邦彦『大麻ヒステリー~思考停止になる日本人~』光文社新書)

ところが日本を占領したGHQは日本産大麻も痲薬と看做し、「種子を含めて本植物を絶滅せよ」と日本政府に命じた。その時依以来、日本産大麻も痲薬と看做されるやうになってしまった。「「ノン・アルコール・ビール」(日本産大麻)も「ビール」(大麻)だから「酒」(痲薬)だといふ論法である。ちなみに、フグにも毒の無いフグがゐる。ヒナゲシもケシの一種だが痲薬成分は含まれてゐない。世間を騒がす「大麻騒動」は密輸品の話で日本産の大麻とは何の関係もない。

【生産の危機が】

このやうに占領中に創られた偏見が蔓延する中で、日本の大麻生産は今や風前の灯である。日本の大麻の大半は栃木県産で、その他の県では生産はしてゐるものの保存会などの組織による取組みで、すでに農業としては成立してゐない。神事に用いる「精麻」に限っていへば、生産の90%を栃木県鹿沼市の十軒の農家が担ふ。年齢構成は、81,79,76,76,75,70,68,65,66,63歳。そのうち後継者が決まってゐるのは一軒のみ。最近やうやく三十代の女性がこれに加はって十一軒になった。この十一軒のうち、一軒を除き作付面積は一反から二反半に過ぎない。通常は夫婦二人での作業になるため、どちらかでも倒れたらそれで廃業。まさに危機的状況である。かういった事情で「精麻」は高騰し、ビニール製や薬漬けの粗悪な中国産大麻を神事に使はざるを得ない神社も多い。「日本産の大麻を使へるのもあと何年だらう」。そんな嘆きを多くの神職から聞いてゐる。

ところで、大麻取締法と聞くと、大麻を禁止する法だと誰もが思ふ。しかし、実はさうではない。なんと、大麻取締法は日本の大麻生産を守るために作られたほうなのである。農林省特産課特産会編『特産課・特産会・二十五年誌』(昭和三十八年)には、そのことが明確に書かれてゐる。

【規制から緩和へ】

本書によると、「昭和20年10月連合軍総司令官より、日本政府あてに発せられた覚書『麻薬の統制及び記録に関する件』の中にMarihuana(Cannabis sativa L.)の栽培禁止に関する条項」があったが、厚生省では「Marihuana.を印度大麻草と翻訳」し、「従来から栽培しているタイマは、この省令には、該当しないものと解していた」。ところが、京都で日本産大麻を軍政部が発見し、禁止を命じてきた。京都府では「事の意外さに驚くとともに、麻薬採取の目的など、まったくないことを強調し、京大薬学科刈米、木村両博士の鑑定書を添付するなどの措置を講じた」が、占領軍は聞く耳を持たず、「栽培を禁止し、種子を含めて本植物を絶滅せよ」との指令が発せられた。

この報告を受けた農林省は、「昭和21年11月農政局長名を以て、終戦連絡事務局経済部長あてタイマ栽培許可を要望するとともに、連合軍総司令部公衆衛生福祉局、天然資源局に折衝を重ねた。この結果、昭和22年2月、連合軍総司令官より日本政府に対し『繊維の採取を目的とする大麻の栽培に関する件』なる覚書が出され、一定の制約条件のもとにタイマの栽培が許可された」。

その条件とは、栽培面積を「全国で5,000ha」に、栽培許可県を「青森、岩手、福島、栃木、新潟、長野、島根、広島、熊本、大分、宮崎の12(原文ママ)県」に限ることであった。かうして、昭和22年4月23日「大麻取締規制」が制定され、さらに昭和23年7月10日に「大麻取締法」が制定された。

そして講和条約締結後は、覚書に基づく栽培面積と栽培県の制限は解消され、「昭和28年3月には、大麻取締を緩和するとともに、取締に関する事務を、都道府県知事に委任することなどを目的として『大麻取締法』の改正が行はれた。以上の経過で、戦後昭和22年から28年までは、厚生、農林両大臣より、タイマの栽培区域及び栽培面積の指定が行われてきたが、29年以降は、都道府県知事の免許を受ければ、いずれの地でもタイマ栽培ができるようになった」(前掲書83-87頁)。

つまり、大麻取締法の制定も許認可権の県への移管も、すべて日本の大麻生産を維持し、容易にするためにおこなはれたことだったのである。

この厚生・農林両省のかつての意図を反映して、現行の大麻取締法の第22条の2でも、許認可権を有する都道府県に対して「この法律に規定する免許又は許可には、条件を付し、及びこれを変更することができる」としながらも、「前項の条件は、大麻の濫用による保健衛生上の危害の発生を防止するための必要な最小限度のものに限り、かつ、免許又は許可を受ける者に対し不当な義務を課することとならないものでなければならない」と定めている(傍線引用者)。つまり、大麻の濫用による保健衛生上の危害の発生の恐れがない場合、即ち繊維採取目的の日本産大麻の栽培は原則として許可せよ、と命じてゐるのである。

【根拠なき禁止】

ところが現在、各県においては、この大麻取締法第22条を無視して、「原則禁止」の大麻行政がおこなはれてゐる。大麻生産についての許可基準は各県ほぼ同一で、「大麻栽培者の資格要件」といふ項目において、「栽培目的」を「伝統的な祭事等、社会的、文化的な重要性が認められるものを継承するもの、又は、一般に使用されている生活必需品として生活に密着した必要不可欠なものである場合に限る」としてゐる。つまり、この二つの目的以外では、たとひ繊維や種子を採るためであっても栽培は認められないのである。

その上、「社会的、文化的な重要性が認められるものの継承」や「生活に密着した必要不可欠なもの」といふ文言を、担当部局はさらに狭く解釈して、「一旦生産が途絶えてゐたら”継承”とは言へない」「外国産でも祭事を継承することはできる」「外国産が輸入できるのだから”必要不可欠”とは言へない」などの理由で大麻栽培の申請を退けてきた。つまり、「必要な最小限度」ではなく、最大限の「不当な義務」ともいへる制限を課してゐるのが現状なのである。

このやうな各県の大麻行政の背後には、厚生労働省の大麻取締法に対する誤った解釈がある。厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課編『麻薬等関係質疑応答集』(平成21年3月)の「第五章」に「大麻関係Q&A(大麻取締法上の取り扱い)」といふ項目がある。

これは各県からの大麻行政に関する質問に対する厚生労働省の回答を纏めたものだが、そのなかの「Q389・大麻取扱者の免許交付審査における注意点を教えてください」に対する答へは次のやうなものだ。

「その栽培や研究の目的が法の趣旨と照らして妥当であるか。特に法が、免許制度により原則として大麻の栽培等を禁止している趣旨にかんがみ、その栽培等が国民にとって必要不可欠なものであるかどうかなど、禁止を除外するに値するもので否か。(中略)などを十分検討していただき、適当でない場合に免許を与えないことが妥当と考えます」(傍線引用者)。

あんと、大麻取締法の趣旨が原則禁止だと正反対に解釈した上に、大麻取締法にはない「国民にとって必要不可欠」といふ審査基準を勝手に加へてゐるのである。この厚労省の解説に根拠がないのは一目瞭然だ。他のQ&Aでは、例へば「大麻研究者が業務廃止した場合の大麻の処分方法について教えてください」といふ問ひについては、答への後に【昭和40年8月18日薬麻一第183号麻薬第一課長通知】【大麻取締法16条第1項ただし書き】と、根拠となる通知や条文がまったく示されてゐないのだ。

この歴史も条文も無視した厚労省の恣意的な解釈によって、大麻の栽培免許の取得は不当に厳しく制限されてゐる。これは大麻取締法に違反するだけではなく、場合によっては憲法が保障する「信教の自由」の侵害にもなりかねない。

【誤りを正せ】

かうして見ると、日本産大麻の危機も、占領中に創られ、その後に偏見が拡大した「戦後レジューム」の一つなのだ。ただし、この状況を克服することはさして困難ではない。法改正は必要ない。ただ許認可権を持つ各県が大麻取締法の趣旨を理解して、繊維採取を目的とする栽培を認めればいいだけの話である。厚労省の解釈は間違ってゐる上に、そもそも許認可権を持ってゐない。もしも自らの解釈で各県を縛ってゐるとすれば、それこそ「不当な義務」を課してゐることになる。

このやうな状況を前にして、皇学館大学では大麻についての正しい認識を広め生産を維持するために、主体となって教育、生産、普及を担ふ準備を進めてゐる。神社界の方々にはぜひこの意義を御理解いただき、ご支援賜れば幸ひである。

最後に敢へて付け加へるが、痲薬効果のない日本産大麻の生産を大麻取締法の趣旨に従って原則認めよといふ話と、痲薬効果のある外国産の大麻を一定の条件下で輸入して研究し、効果が認められれば医薬として認可するべきだといふ話とは問題が別である。まして外国産大麻の使用を嗜好品として認めさせようとする運動とは何の関係もない話だといふことを明確にしておきたい。」


白旗神社ホームページへようこそ。当社は古くから藤沢の地に鎮座する古社で、相模國一之宮寒川神社で有名な寒川比古命と歴史上のヒーロー・源義経公をお祀りしています。寒川比古命は厄除け・方位除けの神様として知られます。また武芸、芸能、学問に優れ、才気あふれる源義経公は、学業成就、社運隆昌などのご神徳があります。境内には、悠久の歴史を感じる史跡が多く、四季を感じられる緑豊かな自然もあります。
ぜひ早起きした朝やお休みの日にでも、お気軽に当社にお越しください。皆様のご参拝を心よりお待ちしております。