投稿日:2024年12月27日(金)
さて、神社界唯一の業界紙であります『神社新報』11月18日号掲載のコラム「神宮だより」をご紹介致します
「本書は番匠(大工)にまつはる知識を綴った公刊本の一冊で、その写本である。本資料は下巻のみの伝来のため著者名を辿ることはできないが、既存の同書の書誌情報によると作者は美作国津山(現・岡山県津山市)の立石定準で、本来はこれに上巻と中巻を加へた三冊揃の書物である。
奥書には「宝暦六年丙子四月吉祥日 東京日本橋通一町目 東都書肆 北畠千鐘房 須原屋茂兵衛」とあり、原本は屋号を千鐘房と称した江戸の大手版元・須原屋茂兵衛から一七五六年に刊行されたものとわかる。文中の「東京」ほか一部の文言については書写者による後世の付け足しであらう。
原本の奥書に続ける形で「明治卅三年(一九〇〇)改月吉祥日 静岡縣濱松町五 伊藤信太郎寫之」とあり書写年と書写者が記される。四つ目綴じで題簽紙を貼らず、囲ひの枠から自筆する。頁に丁数を書き込み、本文の囲ひの罫線や挿絵、刊行広告なども筆写するが、一部に人名の間違ひや字間に不自然な空白、意図的な文字変換が見受けられる。内容は社殿建築や寺院建築等に関する事柄十七項目に分けて記してゐる。以下はその標題である。「一 地鎮の神事/二 釿始の神事/三 宮造の事/四 屋根葺草の事/五 千木鰹木の事/六 鞭掛けの事/七 玉垣の事/八 拝殿の事/九 神門の事/十 燈籠の事/十壱 鳥居の事/十弐 棟上の事/十三 同神前供物の事/十四 寺建立心得の事/十五 唐尺の事/十六 相生相剋の辨/十七 屋敷殿吉凶の辨」。
標題の内「一 地鎮の神事」から「十三 同神前供物の事」まで全体の七、八割を社殿建築に関する事柄に費やしてゐる。さまざまな神道説や神話などを引用して故実を記し、神事に臨む際には清浄を重んじるべしなど、読む者に建築の際の心構へを示す。個々の解説の中には現在の通説と合致しない部分もあるが、近世中期の専門職における知識と風俗を今に伝へる貴重な文献資料である。
(文化部・長谷川明輝)」