投稿日:2021年6月20日(日)
【暦で見る九星の運勢シリーズ】四緑木星:7月(各自の九星についてはブログ末尾の表をご参照ください)「吉方…なし 調子づいて進み過ぎる傾向が目立つので注意を。物事の本質を見極めてから行動する様に何も考えずにその場の勢いのみで進むと痛い目にあう。英知を活かしてよく観察を」とのことです…権禰宜の遠藤です。
さて、神社界唯一の業界紙であります『神社新報』掲載のコラム『刀剣は語る』よりシリーズでお送りしています「春日若宮の毛抜形太刀」を御紹介致します。
【刀剣は語る その12 ~春日若宮の毛抜形太刀~】
「刀剣を飾る、そこにこめられたものとは何でせうか。柄や鞘などの部分を外装、「拵へ」といひます。公卿が束帯に佩く儀仗用の「飾太刀」は、ことさら「拵へ」を凝らしました。貴族にとって刀剣は武具としての性能より、「拵へ」が導 く格のやうなものの方が重要だったのかもしれません。
奈良・春日大社の国宝殿。若宮御料古神宝類(国宝)のひとつである全長七十九・五センチとやや小ぶりの紫檀地螺鈿銀樋毛抜形太刀、その「太刀拵へ」に惹きつけられました。
展示室の照明で、貝殻の螺鈿の飾りがにぶい光を放ってゐます。春日大社では、黄金色に輝く国宝の金地螺鈿の豪華な毛抜形太刀がよく知られますが、それとは対照的に、眼前の太刀は沈んだ銀色を主とする、シャープな太刀拵へです。
刀身を納める鞘は、中央に銀板をはめる銀樋が施してあり、その銀樋を切り透かして、下の黒漆の文様が浮かびあがるといふ精巧な細工。そして、銀樋の上下は、高級な材である紫檀地に螺鈿が飾られてゐます。高度な技が窺へます。
この太刀は春日大社の若宮神社が創建された保延元年(一三五)に、神宝として納められたといふ平安時代作の毛抜形太刀です。若宮神社は、第三殿の天児屋根命と第四殿の比売神の御子神が御祭神。幕末までは本社と同じやうに扱はれ、二十年に一度の式年造替もおこなはれてゐました。一体、誰がなぜこのやうな精緻な太刀を奉納したのでせうか。
「藤原忠実・頼長親子です」とは、国宝殿主任学芸員の松村和歌子さん。若宮神社の御神宝には国が調製する鏡や飾太刀、鉾、弓といふ定番もののほかに、摂関家が特別に献ずるものがあり、この太刀も以前、少将から中将に昇進した息子・頼長に父の忠実が作ったものといひます。
新調された神宝ではなく、息子のために作った太刀であったのです。
松村学芸員は、かう語ります。「摂関家に伝来する大事なものを御神宝として奉納することで、若い神さまに、家を継ぐ若い者への加護を祈ったのでせう」。
忠実は、長子の関白・忠通とは不和で、次子の頼長を氏長者とするなど、頼長への偏愛が知られてゐます。それがのちの保元の乱の一因を作るのですが、若宮に献じた太刀から、頼長への愛情が伝はってきました。
この毛抜形太刀は、八百六十年以上もの長きに亙り若宮神社に納められ、平成九年に撤下されました。そのため歴史の表舞台には登場しませんが、日本史の深層を語る飾り太刀でもあったのでせう。
春日大社
祭神=武甕槌命・经津主命・天呢屋根命・比売神
鎮座地=奈良県奈良市春日野町160
☎0742-22-7788
国宝殿
拝観時間=午前10時~午後5時(入館は4時30分)」