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【神社本庁発行『まほろば』 特集 奈良筆 鈴木一朗~日本が誇る一級品 伝統工芸の技と心~】

投稿日:2017年5月24日(水)


仕事柄筆を持つ機会も多いのですが、きちんとした道具を使いたいなと思いました…権禰宜の遠藤です。

さて、神社本庁発行神社広報『まほろば』第55号に、奈良筆の特集が掲載されていましたので、ご紹介致します。

まほろば55 表紙
まほろば 奈良筆

まほろば 奈良筆

【奈良筆 伝統工芸士 鈴木一朗(すずきかずお) 青江】

「奈良筆」はおよそ一千二百年前、弘法大師空海が入唐し造筆法を究め、大和国高市郡今井の「坂名井清川」(さかないのきよかわ)に伝授して、嵯峨天皇に奉献した記録から始まる。いまでは広島の「熊野筆」、愛知の「豊橋筆」なども有名だが、古都奈良では海外からも注目される良質な筆を生産し続けている。
墨をすり、墨汁を筆に含ませて文字を書く。いまでは見ることの少なくなった光景だ。
いま文字を書くとなればボールペンなどだろうか、よほどでなければ筆を手にする機会は減った。
なぜかと言えば、筆は書く前の準備や後始末に煩わしさがあり、また、筆さばき自体も難しいからではないか。
これまでに数々の賞を受賞し、平成二十三年には瑞宝単光賞をも受賞された伝統工芸士鈴木一朗さんに、失礼を承知で現代人がもつこの様な筆へのイメージをぶつけてみた。

「私は十年くらい前から小学生でも良い筆を使えと言っているんですよ。弘法は筆を選ばずなんて言いますけど、やっぱり選びますよね。悪い筆を使って上手な字を書くのは至難のわざです。良い筆は字が書きやすいように作られていますし、長持ちもします」

小学生が購入する書道セットは、大筆・小筆・硯・墨・文鎮・下敷・カバンなどがセットになって二千円程度。それが大量に生産されているのだから、そこに「良い筆」が入っているとは考えにくい。
「良い筆というのは、書道であれば何でも書ける筆ですね。楷書用・行書用・草書用いろいろあるけど、なんでも書ける筆です。私の場合は、小学生が大きく文字を書いたあと、横に小さく名前を書きますけど、これも大筆で書ける。そんな筆を作っています。初級用・中級用、あれもみんな一緒でいいと思うんですよ」

鈴木さんの「奈良筆」にも値段に幅はあるが、それは材料の違いによるものだ。
鈴木さんは、毛の選別から仕上げまで、およそ十五の工程を経て一本の筆を作る。細かく分ければ工程は二十を超えるという。安い小筆は千数百円からで、高い物は二万円程度。全ての工程には手は抜けないが、なかでも重要なのは一番最初に行う「毛組」や「選別」、「毛もみ」の作業だという。

「原材料は天然の物。髪の毛が一人ずつ違うみたいに動物もみんな違います。それでいて全部同じ品質に仕上げるんです。」

狸の毛一つとっても、必ず個体差があるという。また、部位によっても毛質が違うため、毛の良し悪しや使いどころを見極める目が重要だ。また、「毛もみ」は、鹿皮で毛を揉むことで毛に付着する油分を取り、毛のくせを直すと共に、毛自体に細かい傷をつける。力のいる作業だが、やり過ぎては毛の価値を損ねる。
これらの微妙な加減によって、墨汁をよく吸う良い筆が出来上がる。
筆職人の中でもトップクラスで活躍する鈴木さんの手作業は、見ていると引き込まれてゆく。繰り返される作業のなかに、小気味よいリズムが生まれ、材料が筆へと近づく気配を見せる。
鈴木さんの師は、先代の父親だが、実はその他にも多くの師に出会ってきたという。

「私は父親に教えてもらいましたが、他の職人さんの仕事も沢山勉強させてもらいました。普通職人は、他の職人に仕事を見せる事を嫌います。普通の師匠も他の真似事をするのは嫌いますが、私の周りではそれが無く、幸運な事でした。それに厳しい注文をつける問屋さんも師匠ですし、様々な原料を教えてくれた原料屋さんも師匠です。また、今では実際に使われる書家の先生やお客さんが私の師匠ということなんです」

デパートの催事場にもよく招かれる鈴木さんは、お客さんとの会話を大切にする。

「僕は、催事場なんかで奈良筆、熊野筆、豊橋筆と並ぶことがあるんですけど、そういうとき、よその筆も売るんです。それはね、お客さんが良いという筆は、どういうところが良いのか、僕の勉強にもなるんです。それに、筆を使わない今の時代に、どこの筆であっても使ってくれること自体が嬉しいんです」

職人は一生勉強だと語る鈴木さんは、常に良い物を見る事を大切にしている。良い物を見ないと良いものは出来ない。だから美術館をはじめ、良い物を見る機会を作るようにしているという。
更に、良い仕事をするためには、毎日少しだけ余計に頑張ることを心掛けているそうだ。自分の限界からの十五分や三十分が大切で、「毎日三十分の頑張り」というノルマを自分に課すと、一年後、二年後にどれだけ差がつき飛躍につながることかと話す。
筆作りでの難しい点や喜びについて伺うと、にっこり笑って答えてくれた。

「私たちが作っているのは道具なので、お客さんが言われるものを納期までに作ることが一番ですね。問屋さんに卸すのが基本的な仕事ですが、問屋さんに言われた物をその通りに作ります。なかには、使い始めて少し経つと筆は枯れてくるのですが、その枯れ具合を見せられて、こういう調子の筆を作ってほしいといった難しい注文を受けることもあります。そういうのは僕らの腕の見せ所です」

そういうと、鈴木さんは何本かの筆を取り出し、試し書きを勧めてくれた。

「まずは書いてみて下さい」

試し書きをさせてもらうと、

「もう少し硬い方が良いですか?」

硬い筆も試す。鈴木さんと幾度か意見交換しながら筆を選んでゆくと、いつの間にか字が調っていることに気づく。
自分に合った筆が見つかった瞬間である。筆が紙の上を滑らかに走り、思いのままに留まり、跳ねたい方向に跳ねる。細い線は細さを維持し、太くしたいと力を込めると、思いのままに太くなる。
筆者は筆書きが不得手で、乱筆を自負している。しかし、自分に合う筆を使ったとたん、自分の字では無いほど美しい字が筆先から現れる。まるで魔法にでもかかったかのような感覚だ。
「弘法も筆を選ぶ」と鈴木さんは言ったが、そこで初めて筆は選ばなければならない筆記具であることに気づかされる。

「こうしてお客さんと話をさせて戴くと、お客さんの筆が見つかりますでしょ。それで楽しそうに書いてくれる。喜んでもらって、またあの人の筆を使ってみたいなと思ってもらえたら、それが嬉しいことですね」

鈴木さんに筆で字を書くことの現代的意味について伺った。

「筆で書くと、まず自分の気持ちが引き締まりますね。次に字はその時の感情によって形が変わりますが、筆書きはそれがよく表れるんです。だから、上手い下手でなしに、その人の気が見えるんですね」

いうまでもなく「字」は伝えるための記号である。しかし、筆は人の気持ちを「字」自体に乗せて「文字」にしてくれる。鈴木さんのいう「人の気」、つまり気持ちを表現するのにこれほど適した筆記具もないだろう。日本の美しい言葉・文字に気持ちを乗せて書く。たとえ少し形が歪でも筆なら、より多くの心が伝わる。
そんな魔法の筆は、今日も古都奈良で作られ続け、人々に選ばれることを待っている。


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