ホーム » ブログ » 【神社新報 特集】日本の茅葺き文化~大嘗祭を通して考へる~②

【神社新報 特集】日本の茅葺き文化~大嘗祭を通して考へる~②

投稿日:2020年6月3日(水)


今年は境内の梅があまり実らず…近頃ウグイスやメジロなどの鳥の声もあまり聴いてないですね…鳥もステイホームしてるのでしょうか…権禰宜の佐藤です。

昨日に続き、神社界唯一の業界紙である『神社新報』令和2年5月18日号掲載の特集「日本の茅葺き文化~大嘗祭を通して考へる~」を御紹介致します。

r2518

【日本の茅葺き文化~大嘗祭を通して考へる~】

<豊葦原瑞穂国>

「豊葦原瑞穂国」の「葦」はススキとは異なるが、ひじょうに近い同じ仲間の植物である。湿原だと葦が優性になることから「山のススキ・水辺の葦」とも呼ばれ、この二つの植物によって日本列島は浄化されてきた。琵琶湖や霞ヶ浦などが葦によって浄化されてゐることはよく知られてゐる。一方でススキについてはよくわかってをらず、やたら 生える厄介な植物としていまや邪魔者の代表ともなってゐる。

しかし、これまで見てきたススキの作用を踏まへると、ススキと葦が一対のものとして日本列島の環境保全、持続的な資源、農耕社会の循環に寄与したと考へることができる。大嘗祭や神宮式年遷宮で最も大事なテーマは「更新」である。「茅」そして茅葺き屋根はかうした力の象徴ともいへると確信する。

茅の浄化力については各国に例が見られる。 国土の四〇%が海抜零であるオランダでは、水辺の浄化が国土保全の最大の課題であり、古くから葦を用ゐ、刈り取ると屋根に葺いてきた。またデンマークでは、永年の酪農で牧草地の土壌が汚染されてゐたが、研究の結果、現在は日本のススキを改良したものをバイオ燃料とするとともに、土壌改良に努めてゐる。

現在の日本では、ここまではおこなはれてゐない。しかし、すでに千三百年前の『万葉集』で歌はれてゐるやうに、大嘗宮、そして伊勢の神宮の屋根を茅葺きにしたといふことは、農業を持続可能にする茅の「力」を知ってゐたのだと考へられる。神宮式年遷宮が始まった奈良時代、あるいはそれ以前から、稲作農耕文化による国づくりは最 も重要な課題であった。その方針が、茅葺きにもあらはされてゐると私は考へる。

さて、池氏も指摘してゐるが、「家屋文鏡」の絵をよく見ると茅葺き屋根の突端がギザギザに波打ってをり、「逆葺き」であることがわかる。茅葺きには、茅の根元が軒先に向かふ「真葺き」と、茅の穂先が軒先に向いてゐる「逆葺き」とがあり、現在は「真葺き」が圧倒的に多いものの『延喜式』などの文献にはわざわざ「逆葺き」と書いてある 例も見られ、特別な意味があると考へられる。

厚く葺いて堂々たるものとしたり、耐久性を考へたりすると真葺きにする必要がある。薄く葺く逆葺きは、建築的には簡単な小屋や仮設建築などに適した簡易な葺き方といはれ、職人でなくても葺くことは可能だ。しかし「家屋文鏡」に描かれた当時の主要建物がすべて逆葺きであることから、単に簡易な方法だからといふだけではなく、逆葺きとすることそのものに特別な意味が籠められてゐるのではないだらうか。この点は池氏も指摘してゐるものの、その先については研究されなかったやうだ。私は「稲穂を表現するため」に逆葺きを用ゐたのではないかと考へる。

<日本の「美しさ」>

建築とは雨露をしのぐものであると同時に、権威や目標を示すことにも使はれてきた。つまりこの時代、大嘗宮や神宮の屋根に茅を葺くといふことは、その国の方針をあらはすといへる。

「豊葦原瑞穂国」の「豊葦原」とは「豊かな葦原が広がる」、あるいは「広げなさい」「広がるやうに」と解釈でき、「瑞穂」とは稲穂のことである。全体としては「稲穂が広がる国をつくらう」といふ意味であって、古代の日本人が稲作農耕を広めるといふ大きな目標を持ってゐたこととも合致する。

当時、収穫期に多くの稲穂が頭を垂れるさまは豊かな実りの姿であっただらう。そして屋根材としては、根っこしか見えない真葺きより、逆葺きならば軒先から垂れた茅の穂先が稲穂のやうに見え、とくに美しいと感じられたのではないか。大嘗宮や神宮は儀式の象徴であり、建築としての耐久性より表現が大事だったのではないかとも考へ られる。「私たちの祖先が建築で大切にした価値観とは、美しい稲穂を表すことだったのではないだらうか。日本人はすばらしいものに対し、最終的な表現として「美しい」といふ言葉を使ふ。屋根全体に稲穂が下がって葺かれてゐる様は正にその「美しさ」といへよう。逆葺きは、日本人が大切にしてきた美しさであり、とくに祭りの「場」に用ゐ ることは、実り豊かで皆を幸せにすることへの表現だったのではないだらうか。以上、日本人と茅葺き文化に関し、昨年大嘗宮の屋根材に関する議論を契機として多分野の方々と話す機会があり、改めてわかってきた次第である。

(編輯部 本稿は令和二年二月十四日に開催された時の流れ研究会での発表を編輯部で要約したものです)

著:筑波大学名誉教授・一般社団法人日本茅葺き文化協会代表理事 安藤邦廣


白旗神社ホームページへようこそ。当社は古くから藤沢の地に鎮座する古社で、相模國一之宮寒川神社で有名な寒川比古命と歴史上のヒーロー・源義経公をお祀りしています。寒川比古命は厄除け・方位除けの神様として知られます。また武芸、芸能、学問に優れ、才気あふれる源義経公は、学業成就、社運隆昌などのご神徳があります。境内には、悠久の歴史を感じる史跡が多く、四季を感じられる緑豊かな自然もあります。
ぜひ早起きした朝やお休みの日にでも、お気軽に当社にお越しください。皆様のご参拝を心よりお待ちしております。