投稿日:2017年12月7日(木)
今日は二十四節季の一つ大雪(たいせつ)。陰気が積んで雪となり、はなはだしくなるという意。旧十一月の正節…権禰宜の遠藤です。
さて、公益社団法人 国民文化研究会発行の『国民同胞』平成29年6月10日号より、「祖国とは国語だ」ど題して寄稿された文章を紹介致します。
少し長いので、何回かに分けて掲載致します。今回は第3回、「原発事故とカタカナ語」です。
「祖国とは国語だ」~平成の言語感覚に就いて~ 占部 賢志(中村学園大学教授)
原発事故とカタカナ語
もう一つ、当節の日本人の言語感覚がどこか狂ってゐるのではないかと思はれたのが、一連の福島原発事故の報道である。
原発の専門家は平然とした口調でこんな風に言ひ続けたのはいまだ記 憶に新しい。曰く、「どうも原子炉内がメルトダウンする可能性がある のでベントをするとともに、周辺地域にはモニタリング・ポストを増設 して様子を見ることにした」などの 言ひ方である。一刻も早く情報を知 りたい被災者を煙に巻くやうな専門用語で説明が繰り返された。
福島の原発事故を連日取材してゐ た記者はこんな体験を回顧する。取材中、専門家の口から頻繁に「サプチェン、サプチェン」といふカタカナ語が飛び出してくる。切迫した様子から重大な用語らしいが、何を意味するのかさつばり分らない。聞いても忙しく立ち回ってゐて、なかな か相手にして貰へなかった。そんな苦労の挙げ句、やうやくサプチェンとはサプレッション・チェンバーの和製略語だと突き止めた。日本語で言へば、圧力抑制室、原子炉内の圧力上昇を抑へるために設けられてゐるドーナツ型の装置を指す。
これが実態である。誰にも分るや うに説明する、専門家諸氏の頭にはその自覚が欠けてゐた。先ほどの例で言へば、「原子炉の底が溶ける可能性があるので、今換気をしてゐる ところだ。併せて、放射線量を調べるため観測装置も増設する」。この やうに説明すればよかったのである。
ところが、カタカナ語が延々と垂れ流された。おい、何をやってゐる んだ。被災者をはじめ国民に通じる日本語を使へ。このやうに叱り飛ばすリーダーが出なかったことは、返す返すも残念なことである。